前半はスラム住人の住環境と食の悲惨さ、後半は娼婦と女工の過酷な労働実態に光をあてる。当時、東京の住人の15%、約30万人がこうした生活困窮者であったという。現在の人口比でいうとなんと120万人になるから、その凄まじさに呆然となる。ちなみに平成12年の東京23区内のホームレスは6000人弱、である。
都市がスラム化する原因は、人々が田舎の定住生活を捨て「流民」になるからであるという。
どんなに立派な高層マンションに住んていても、そこに定住するつもりがないなら、それは流民である。流民はそこを終の棲家だと思っていないから、近所とも付き合わないし、ごみを廊下に積んでも平気である。そうして流民の心は荒んでいく。当時から100年たって、建物は清潔になり、食べるものにも困らなくなったが、人々のモラルは地に落ちたままだ。流民の心の荒廃は当時のスラム住民となにも変わらない。これが著者の主張である。
福祉政策の問題、弱者救済のあり方、貧困が招く心の荒廃など、本書が現代に提示する問題は多いが、こんなに貧しい日本がかつてあった、ということを知るだけでも、いろいろなことを考えされられる一冊である。